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Fの伝説(呪いのドア編)

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おかげさまでいそがしく、カヤックフィッシング復帰はお盆明けから!

ということで、今日も懲りずに「閉鎖予定の昔のブログからの転載」ネタ。ホエールの大学時代の友人「F」の伝説の続きです!

20年前の大学生時代・・・あの頃、僕らに失うものはなかった!!そんな生活の記録です。

連載なので、カヤックフィッシングネタがしばらく登場しません。「カヤックフィッシング」で検索して来ていただいた皆さん、本当にスイマセン!!
————————————————————————

ある年に

「ドキッ!男だらけのクリスマスパーティー」

というイベントが、東京のど真ん中の3畳半の部屋で開催された。……まあ、Fの家である。

Fの家にタツノリやN村など、むっさい大学生日本代表みたいなやつらが集結し、クリスマスケーキを肴に日本酒をラッパ飲みするという…ひどいイベントである。

これでは全人類の罪を背負って死んだキリスト様も報われない。

僕はこの年はカノジョがいたので、この「ドキッ!男だらけのクリスマスパーティー」には参加しなかった。

僕がいないこのイベントで、ある大きな事件の伏線となる出来事が起こっていた。

原因は、今現在も僕の釣りの相方であるタツノリだ。

このクリスマスの日、日本酒を飲み過ぎて泥酔したタツノリは何を思ったか、Fの家のドアを本気で何度も何度も蹴りまくったらしい。

Fの家のドアはかなりしっかりした鉄製の重いドアだ。なんでそんなことをしたのかタツノリ本人も全く覚えていないらしいが、よくもまあ、足をケガをしなかったと思う。

それどころか、タツノリに蹴られたドアは一部が大きくへっこんで、全体的にも微妙にひっしゃげていた。

こういうのを馬鹿力というのだろう。

この日以来、Fの家のドアのたてつけが非常に悪くなってしまった。

ドアを開けようとしてもにっちもさっちもいかないぐらいに重いのである。

訪れた友人達は体重をかけてグイーっとドアをひっぱらないとFの家に入れないのだ。

しかし、Fは謝罪するタツノリに対して怒るどころか「酒の席のことやからええってええって、頼むからもう謝るのやめや!」と一笑にふしていた。

家を引き払う時に修理代を請求されそうだが……こういう部分でFは人間ができていた。

ここで怒ったりしたら、せっかく楽しく過ごしたクリスマス(男だらけだけど)の思い出が台無しになる、それがイヤだったのかもしれない。

当然、ドアの修理に回す金などないFである。ドアの立て付けは悪いまま月日は流れた………

「ドキッ!男だらけのクリスマスパーティー」から数ヶ月が経ち、いよいよ大学生達は長い長い春休みに入った。

長期の休みに入ると、みんな帰省したり、旅行にいったり、バイトやサークルに励んだりして、学校には寄りつかなくなる。

3年から4年に上がる春休みだったので、就職活動もいよいよ本格化していた。

僕らも大学に行かなくなった為、Fともしばしのお別れである。

Fはというと、帰省する金も遊ぶ金もないので、しょうがないので家でゴロゴロしながら本を読んだりして、だらだらと過ごしていたらしい。

そして……事件は起こった。

ここからは後に詳しく聞いた話である。

Fは出かける時は鍵を開けっぱなしにして、家にいる時は内側から鍵をかけるということは前回書いたと思う。

ある春休みの日、昼頃に起きたFは喉が渇いたのでコカ・コーラでも買おうかと家から外に出ようとした。すると……

鍵が開かない!

力まかせに鍵を回そうとしても全く駄目である。

「くっそーなめたらアカンで」

ドアノブを持ち、思いっきり体重をかけて回す……

カチリ!

「お!鍵開いたやん!」

そして、ドアノブを回すと……


ポロリ………


なんと!ドアノブが台座を残して取れてしまった!!


この時点では、ことの重大さにFはまだ気付いていなかった。

しばしノブを持って呆然と立ちすくむ。

ハッ!ここで気付いた。

「ドア開くんかいな?」

試しに押してみると、ドアはピクリとも動かない。

次に思いっきり体当たりする。

やはりドアはピクリとも動かない。

ヤバイでこれは……

残されたドアノブの台座の奥に金具のようなものがなんとなく見える。

これを回せばきっとドアが開く。

しかし!指で金具を回そうにも、届かない。

工具でもあれば、台座を取り外して対処することも出来たろうが、あいにくFの家にそんな道具があるわけがない。

それから数時間、ドアノブの台座と格闘するが、どうやってもドアが開かないことが判明した。

だんだん日も暮れてきた。

Fはここでことの重大さに気が付いた。


「アカン…自分の家に閉じこめられてもうた……」


急激にパニックに襲われる。

ドアを内側からドン!ドン!ドン!と叩いてみる。

「誰か!誰かいませんかーーー!!」

……返事は無い。

窓を開けて叫んでみる。

「誰か!助けてくださーーい!!」

……しかし、窓は道路側ではなく、大学の敷地の森に面していた。しかも、ここは3Fである。

隣の住人に気付いてもらおうと、壁をドン!ドン!と叩く。

「すいませーん!!大家さん呼んでもらえませんかぁーー!!!」

……隣からは何の反応もない。帰省してしまっているのかもしれない。

元々からして、かなりしっかりしたコンクリートの壁である。音が聞こえているかも微妙だ。いくら壁を叩いても手が痛くなるだけだった。

電話(PHS)は……とっくの昔に止められている。

彼にとって、友達への連絡もバイト先への連絡も公衆電話に頼っていた。

その公衆電話は“家の外”にあるのである。

助けが呼べないやん。

どうしたもんやろうか……

そして、Fは腹をくくった。

“誰かが来るまで待つしかない”

急いで、水道を確認する。

よっしゃ!水は出る。

電気を点けてみる。

よっしゃ!電気は止められていない。

月の半ばである。水道も電気もすぐに止められる心配はない。

食糧を確認する。

例の“自衛隊ボックス”に古米が僅かに残されているだけであった。

食べ物が何も無いよりはマシやな……

Fの自宅での軟禁生活がスタートした。

とりあえず、その日は眠ることにした。

翌日、目を覚まし、もう一度だけドアを確認してみる。

相変わらずドアはピクリとも動かない。

やはり誰かの救助を待たなければならないんや……都会のど真ん中にいるにもかかわらず、気分はロビンソンクルーソーである。

しかも、このマンションの郵便ボックスは1階にまとめられていたので、郵便屋さんが3Fまで来ることはほぼ無い。

この風呂無し3畳半の貧乏マンションに新聞を取っている学生なんていなかったので、新聞屋もこない。

つまり、この3階に上がってくる可能性があるのは

1:Fの知り合い
2:隣の人、もしくはその知り合い
3:4Fの住人、もしくはその知り合い
4:ビラ配りや何かの勧誘などイレギュラーな人物

こう考えるとけっこう可能性はありそうだ。

しかし、気になるのは、数年間住んでいながら、4Fの住人をこれまで一度も見かけたことがないってことだ。

さらに、大学から近いためにいつもは友達がひっきりなしに訪れるFの家であるが、皮肉にも今は春休みなのである。F自身の知り合いは春休みが終わるまで誰も訪れそうにない。

……くよくよ考えていても始まらない。

Fは開き直って部屋の真ん中に座り、誰かが家の前を通りかかるのをひたすら待った。

喉が渇けば水道水を飲み。

腹が減ったら米を少しづつ炊いて食う。

おかずなんて存在しない。

趣向を変えるためにご飯に醤油、ソース、マヨネーズをかけてアレンジしたという。

そして、数日が経った……

ウトウトしていると、外の階段を誰かが歩いているような音が聞こえたような気がして慌てて飛び起きた。

急いでドアを叩く!

「すんませーーん!助けてください!」

しかし、外から誰かが応答してくれることはなかった……

そんなことが4~5回はあったそうだ。

もしかしたら足音は全て“幻聴”だったのかもしれない。Fはそれぐらい精神的に追いつめられてきていた。

さらに数日が過ぎる。

時折ウトウトと眠っているので、今日が一体何日目なのかが定かではなくなってきていた。たぶん一週間以上が経ったろうか。

この一週間以上、水と米だけで生きながらえている。

栄養的にも問題があるのだろう。さすがにパワーが出ない。足に力が入らなくなってきていた。

しかも、米の残りがかなり少なくなってきている。もってあと数日分だろう。

「ワシ、ここで死ぬのかもしれんなぁ……ああぁ…なんて死に方や」

自分の家に閉じこめられて、東京のど真ん中で餓死。そんな信じられない事態もいよいいよ現実味を帯びてきた。

Fはもう、立ち上がる元気もなく、ひたすら横になっていた。

こういう時間は苦痛を伴うほどゆっくりと流れるらしい。そして、また日が暮れてきた。

車が走る音が聞こえる。飛行機が飛ぶ音も聞こえる。虫の羽音もする。ゴキブリが這う音もする。街の雑踏が聞こえる。

こうして何もせずにじっーっと耳をすますと、東京という街は膨大な音で充満してるということがよーく分かる。

窓の外の東京は、Fに今起こっている事態なんかに関係なく、いつもと変わらない日常が営まれているのだ。

「あぁ…ワシなんておらんでも世界はなんも変わらんのや……」

Fはもう半分諦めかけていた。

その時である!!


カツ、カツ、カツ、カツ……


外の階段を誰かが登ってくる音がする。

“なんや、また幻聴か~もうええわ……”

Fは体を起こすこともしなかった。

しかし、足音がいやにハッキリしてきた。


“もしかしたら今度は……本物かっ!?”


足音がドアの前で止まる。


ゴン!ゴン!ゴン!


ドアが叩かれる。


「Fぅ~いないのぉ~?」


N村の声だ!!!!

いきなりの救世主登場に、Fはとっさには声が出せなかった。

なんとか声を振り絞る。

「おるっ!おるで!!!ワシはここにおるでっ!!!部屋に閉じこめられてしまったんや!助けてくれ!誰か呼んできてくれ!!」

N村が外側からドアノブを回す。


ギィ~~~


ドアは………


外側からはいとも簡単に開けられたのだ。


「そんなアホな~~~!!」


N村を招き入れ、ドアが再び閉まらないように古いコンバースを挟む。

N村は事態を飲み込んでいなかったが、Fの尋常じゃないやつれっぷりに、何かとんでもないことが起こっていたことを察知した。

「N村……お前は…お前はワシの命の恩人やで……ありがとう」

事情を聞いたN村はすぐにコンビニに行き、Fに弁当とコカ・コーラを買ってきてあげた。

実に一週間ぶりのまともな食事にがっつくFであるが、体が拒否反応を起こして最初はうまく食べ物が飲み込めなかったらしい。

Fはゆっくりとコンビニ弁当を噛みながら、同時に生きていることの喜びも噛みしめていた。

N村は就職活動の一環で、実習をしに都心に出てきたのだ。

そして、たまたま実習が思ったより早く終わったため、Fの家に寄ってみたという。

N村が立ち寄らなかったらFはもしかしたら……(汗)

後にFに聞くと「よく、死ぬ前にこれまでの人生を走馬燈のように見るっていうやろ。あれは本当やで。N村に助けられる前日ぐらいから、生まれてから今までおこった楽しい出来事ばかりが次々と頭に浮かんでの~。完全に忘れとった思い出もあったわ~」と言っていた。

自宅にいながら臨死体験って……

こうしてFにまた一つ新しい伝説が加わったのであった。

この呪われたドアは、春休みが終わっても直されることはなく、Fが家にいる時は完全に閉じないようにコンバースが常に挟まれていた。

遊びに来ている僕らからすれば「また閉まったらどうすんだよ……」と、けっこうヒヤヒヤである。

しかし、油断をするとまた軟禁される恐れがある為、さすがにある程度の金ができた時に鍵屋に来てもらって修理される運びとなった。

とにかく、交通量調査のバイトで僕が泊まっている時にこの事態が起こらなくて良かった……と心の底から思うホエールであった。

~つづく~

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