おかげさまでいそがしく、カヤックフィッシング復帰はお盆明けから!
(※カヤックはパドリング講習でこの1週間で5日浮いていますが!)
ということで、今日も懲りずに「閉鎖予定の昔のブログからの転載」ネタ。ホエールの大学時代の友人「F」の伝説の続きです!
20年前の大学生時代・・・あの頃、僕らに失うものはなかった!!そんな生活の記録です。
連載なので、カヤックフィッシングネタがしばらく登場しません。「カヤックフィッシング」で検索して来ていただいた皆さん、本当にスイマセン!!
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Fの家の衛生状態はお世辞にもいいとは言えなかった。
掃除機なんてなかったので、畳は数年間、一度も掃除されることはなかったと思う。
僕らは自分が出したゴミを持って帰るようにしていたが、友達からFに差し入れられたカップラーメンやコンビニ弁当のゴミはビニール袋の中でくすぶっていた。
布団も一度も干されることがなく数年間放置プレーになっている。
「大丈夫やって、うちってカーテンないやん。自然に畳も布団も干されとるんや」
確かに……夏場は日差しがモロに差し込んでサウナ状態だった。
冷蔵庫がないので、調味料類も出しっぱなしである。
醤油はよしとしよう。ソースは微妙だけどまだなんとか許せる。
だが、マヨネーズまでが常温保存されているのだ。
……それはやばいっしょ。
「マヨネーズには酢が入っとるから常温で長いこと置いておいても大丈夫なんやで」
キューピーマヨネーズのパッケージには“開封後要冷蔵”その上で“一ヶ月以内にお召し上がりください”って書いてありますけど……(汗)
ある日、Fの家で“ペヤングソース焼きそば”を食っていたら、Fが「焼きそばにはマヨネーズやろ~ウチの使っていいで」とすすめてきた。
とてもじゃないけど、開封状態で長期間常温保存されたマヨネーズをかける気にはなれない。
本当は焼きそば+マヨネーズは大好物なんだけど、Fの気分を害さないように「関東では焼きそばにはマヨネーズかけないのが“通”とされるんだぜ」と嘘をつかせていただいた。
僕は、Fの家でカップラーメンを食べる時、お湯はカップラーメンを買った時点でコンビニで入れていく。
口には出さなかったが、Fの家の電気ポットの中のお湯の鮮度にかなり疑問があったからである。
Fは「うちでお湯入れればええやん」と言ってくれるのだが……
Fの気分を害さないように「コンビニでお湯入れていくと、ちょうどFの家についた時に待たずに食えるじゃん」と丁重にお断りさせていただいていた。
タツノリやN村をはじめ、みんなはFの家のお湯を使っていた。
僕だけFの家のお湯を汚いものと思っている……コンビニでお湯を入れるたびに、チクリチクリと罪悪感が胸をつついた。
ある日、Fの家でみんなでダラダラ過ごしていた。
腹が減ったので、コンビニに買い出しに行くことにする。
相変わらず僕は少しの罪悪感を感じながらもコンビニで“ペヤングソース焼きそば”にお湯を注いでFの家まで運んだ。
タツノリは“日清焼きそばUFO”を買って、Fの家でお湯を入れる。
Fの家の電気ポットからお湯が注がれる。
ピュ~……………
ヒュンッ!!
今、ヒュンッ!って何か黒いものがお湯と一緒に出てこなかったか!?
「うわっあああ!ゴキブリがUFOに入ったーーー!!」
タツノリが絶叫した!
見ると、“日清焼きそばUFO”の麺の上にゴキブリの死体が乗っかっているではないか!
僕は心の底から思った……
『僕は間違っていなかった』
Fの家の電気ポッドにゴキブリが入り込んで熱さで死んでいたのであろう。
タツノリは「これはもう食えないよ。ゴキブリってどんな病原菌持っているかわかんねーもん」と、“日清焼きそばUFO”の麺をお湯と一緒に捨てようとした。
タツノリは「これはもう食えないよ。ゴキブリってどんな病原菌持っているかわかんねーもん」と、“日清焼きそばUFO”の麺をお湯と一緒に捨てようとした。
Fが慌てて止めに入る!
「待てや!捨てるならワシが食うわ!アホか~ゴキブリぐらいで」
ゴキブリを箸で取り除き、ポットのお湯をつぎ足した。
おい!せめてポットの中のお湯は換えようよ……
3分後、棚からボタ餅の“日清焼きそばUFO”を美味しそうにほおばっているFがそこにいた。
そう、Fの家にはゴキブリが実にたくさんいたのだ。
オオクワガタかと見間違うほど大きい立派なサイズから、赤っぽくてアリのように小さいサイズまで。とてもバリエーションに富んでいた。
ゴキブリを複数で見たことがある人っているだろうか?僕はそれまでの人生でゴキブリというのは人前には単独で出てくる生き物だと思っていた。
そして、人間というのは、ゴキブリを見たら「うわっ!」とか「キャー!」と言ってビックリするものだと思っていた。
しかし、それは違ったのだ。
Fの家では、ゴキブリがそこらに何匹も見えるのは当たり前の話。
最初の頃こそ「おい!今ゴキブリがいたぞ!」とリアクションを取っていたものの、Fの家に慣れてくると、ゴキブリがいるのがだんだん当たり前になってくる。慣れって怖い……
っていうか、いちいちゴキブリにリアクションしていたら、1時間で疲れてしまう。
ドラクエ3で黄金の爪を持っている時のモンスター出現率ぐらいのゴキブリ出現率なのである。
その内、ゴキブリは道ばたの石ころのように気にも留めないようなっている僕がいた。
このFの家での経験で僕が学んだのは、ゴキブリはとても知能指数が高い生き物だということ。
これまで、ゴキブリというのは人間を見たら無条件で逃げる生き物だと思っていたが、それも違った。
Fはゴキブリを「ワシのかわいいペットや」と豪語していた。
「せっかく飼い馴らしとるんやからゴキブリをビックリさせたらアカンで」
“ゴキブリは人間に馴れるのか?”という、Fにとって壮大な実験だったようである。
なんと、このマンションに越してきて5年以上、一匹もゴキブリを殺さずに放置しているらしいのだ。
そして、実験の答えは既に出ていた。
その答えは“こちらに殺す気がなければゴキブリは人間を怖れない”である。
ゴキブリは僕らが座っている横をゆっくり歩いていたりする。それどころか、時には近寄ってくることさえあった。
ペット化成功してるし……
だが、Fに言わせれば、F以外の友達がいる時は、やはりゴキブリの多くはビビッているようで、これでも出現が少ない方だそうだ。
ゴキブリはFに対しては完全に心を許しているようで、Fが一人になるともっと数多くのゴキブリが自由に徘徊しているという。
ゴキブリには学習能力があるのだ。
しかし、ヒッチコックの「鳥」ではないが、ゴキブリ達はだんだん暴走を始めた。
馴れるどころか、傍若無人になってきたのである。
初夏の時期だったので、もしかしたらゴキブリの繁殖期などとの関係があったのだろうか?とにかくゴキブリ達は殺気立っていたように感じる。
Fの家でみんなでダベっていると、ゴキブリがいきなり部屋を横切るように飛んだりすることもザラになってきた。
「うわっーーーゴキブリが飛んできたーーー!!」Fの家に馴れたメンツ達でも、さすがにこれにはパニックになった。
また、こんなこともあった。
僕がFの家の水道に“ペヤングソース焼きそば”のお湯を捨てていると、いい匂いをかぎつけたのか、熱かったのか、排水口から4~5匹のゴキブリが現れて猛烈にこっちへ突進してきた。
うわっ!!
僕が感じたのはまぎれもなく“恐怖”だった。
思わず“ペヤングソース焼きそば”を容器ごと落としてしまった。
ああーーータツノリの二の舞だ……
さすがに、水道にこぼれた“ペヤングソース焼きそば”はFも食おうとはしなかった。
人間に対して猛烈な速度でむかってくる数匹のゴキブリ。ちょっとどころか、かなり異常である。
それからしばらして、学校でFと話していると、
「最近な、寝てるとゴキブリがワシの身体に乗ってくるんや……寝れなくてちょっとまいっとる」
「殺しちゃえばいいじゃん!」
「ここまで可愛がっとったんやで、殺すのはちょっと……」
ゴキブリをここまで愛した男はなかなかいないだろう。
ゴキブリはそれから数日間にわたって、Fの睡眠を妨げた。
学習能力の高さから、寝ているFの上に乗っても殺されないことが分かっていたのかもしれない。
その数日後のある晩。
冷房がないFの家は熱帯夜にみまわれていた。
あまりの熱さにFは全裸で眠っていた。
夜中にふと目が覚める。
カサカサッ…
ガサッ…ガサガサッ!!
『来たで来たで……今日もまた来たで……』
案の定、ゴキブリがFの寝床に侵入してきたのである。
『これはほんとになんとかせな不眠症になってしまうわ』
そう思ったその時!!
カプッ…
Fの脇腹に激痛が走った!!!!
「イッテーーー!!痛いって!!」
なんと、Fはゴキブリに噛まれたのである。
『殺される……』
Fはとっさに布団でバサバサとゴキブリを追い払った。ゴキブリに対して攻撃をしたのは5年目にして初めてである。
その夜は、ちょっとウトウトすると“カサカサ…”と聞こえるような気がして、もうFは眠ることができなかった。
3畳半の部屋である。
繁殖しすぎて餌が足りなくなった飢えたゴキブリからすれば、肉付きのいいFは“格好の食糧”に見えたのかもしれない。
翌日、学校でFがタツノリに相談をした。
(この日、僕は学校に行っていなかった。残念だ)
「あのな、ゴキブリを殺そうと思うんや……そうせんとワシが殺されてまう。5年可愛がってきたのに残念なんやけど、背に腹はかえられん。デッドオアアライブってやつや」
タツノリは“日清焼きそばUFO”事件でFの家のゴキブリには恨みがあったし、いつも遊びに行っている家にゴキブリがたくさんいることがずっとイヤだったので、大賛成だ。
「F、よく言ってくれた。喜んで手伝わせてもらうよ!」
そして、タツノリが出資してゴキブリホイホイを購入した。
Fの3畳半の部屋の隅々まで6つのゴキブリホイホイがセットされる。
「いくらなんでもこの部屋にゴキブリホイホイは6個は多いやろ~」
「どれぐらい入るか楽しみだな、翌朝までゴキブリホイホイを覗くのは禁止だぜ!」
そして、二人はファミスタをしながら朝まで待った。
ゴキブリホイホイを覗くのは禁止だったが、その間、これまでとは明らかに違う数のゴキブリの気配が部屋に充満していたそうだ。
そして、翌朝。
いよいよセットしたゴキブリホイホイを覗く。
その結果は生やさしいもんじゃなかった。
6個のゴキブリホイホイが全てドス黒く埋まっているのである。
息絶えたゴキブリの層の上をさらにゴキブリがうごめいている。
もう粘着シートに“空き”がないのだ。
見えるゴキブリだけをFとタツノリが暫定的に数えるとその数……
約380匹
3畳半のスペースである。ものすごい人口密度、いやゴキ口密度だ。
6個のゴキブリホイホイは、まだ息のあるゴキブリも一緒にビニール袋に入念にくるまれ、可燃ゴミに出された。
こうして、アレフガルドの地に…ではなくFの家に再び平和が訪れたのだ。
~つづく~
(次回はいよいよFの伝説・最終話!)